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[これからはダイジェスト翻訳の時代?120年ほど前、ki氏とw氏が「知的読書の方法」について語り合ったことがあった(ki『知性派の読書学』柏選書)。
その対談によれば、日本人にはおなじみの「世界文学全集」は、よその国には「絶対ないと言っていい」ほど稀な企画なのだそうだ。
何でも訳してやろう、の精神こそ日本人の基本的特性なのかもしれない。
私などもこの特性の功徳、をこうむっている。
なにしろ、いまかりそめにも文学の話ができるのは、ひとえに子供の頃むさぼり読んだあかね書房版『少年少女世界文学全集』、同『日本文学全集』のお陰だからだ。
抄訳(ダイジェスト翻訳)とはいえ、文学の世界を覗くには恰好の叢書だった。
ダイジェストであれ一通りさわりを知っておくのとおかないのとでは、知的好奇心の広がりに雲泥の差が生じる。
忙しい現代ならなおさらだ。
「必読の書30冊のダイジェスト、これを読めば原本を読まなくてもよい」と、読書癖50年を誇るyaの著書の宣伝にあったが、これから文学でも実務でもダイジェストの需要は増してくるのではないだろうか。
元・s国際室長で現・O女子大学短期大学部教授のks氏は授業の中でダイジェスト翻訳の訓練をさせている。
午後の会議で使うから、これこれの英文資料を至急エァセンスだけまとめて翻訳してくれ、といった仕事が実社会ではままあることを踏まえてのことだ。
卒業生は入社後けっこう評判がいいらしい。
いっそのこと、法人、個人を問わぬダイジェスト需要をまとめて請け負う翻訳ビジネスが出てきてもよさそうに思うのだが、どうだろうか。
[マルチメディア・トランスレータ]こんな言葉があるかどうかは知らない。
文字と音声と画像が一体となってインタラクティプに使えるマルチメディア環境に見合った翻訳家、の意味で使ってみた。
イメージするのは、出版、字幕、吹替の翻訳をそれぞれこなせて、しかもコンピュータ知識があるタレント。
マルチメディア・タイトルというと、まだアダルト系やゲーム系のものが主流だが、これからは、膨大かつ精細な画像・音声データを含む図鑑・百科事典・歴史絵巻といった教養系の需要も増大していくだろう。
パソコンの処理能力やネットワーク・インフラの光ファイバー化などが進めば、十分実用的な速度で眺めることができるようになるからだ。
そうなれば、「世界文学全集」をつくる唯一の国・日本だけに、世界中のタイトルを集めて翻訳していくに違いない。
ソフトウェア技術者だけでなく翻訳家も足りなくなるのは目に見えている。
そこで、マルチメディア・トランスレータの養成急務ということになる。
従来のような分業体制では時間的にもコスト的にも見合わないからだ。
そんなに遠い話ではない。
例えば、最近、世界中の注目を集めながら誕生した次世代映像記録媒体DVD(デジタル・ビデオ・ディスク)などは、ハリウッド映画をまるごとデジタル収録できる画期的なメディアだけに、従来にない新しい映像ソフトを供給していくだろう。
アナログのビデオと違って、パンフレット的要素も盛り込めるのが特徴だ。
マルチメディア・トランスレータを求める気運は、もうそこまでやってきているのではないだろうか。
{翻訳講座のある大学]最近は、「超氷河期」のなせるわざか、学生の間でも翻訳家という職業が注目されるようになった(某翻訳家などは、スナックで商売を聞かれて「翻訳業」と答えたら、バイトの女子学生に「カッコいい!」といわれてエラくもてたそうだ・・ホントかね)。
ともあれ、翻訳講座を設ける大学が徐々に増えてきたようである(Ir翻訳・通訳ジャ一ナルJ93年6月号参照)。
例えば、A学院大学の講座案内を見ると、「科目・講座名・翻訳理論及び、実習担当講師ky授業内容:翻訳技術・講義」とあって、次のコメント。
「この授業をうけても、すぐに翻訳の仕事ができるわけではなく、翻訳とはいかに難ししまたいかにやりがいがあるものかということがわかるだけでも価値があると思われる。
やはり適性があり、生半可な気持ちでは、一年間授業に出るのは苦痛になるおそれがある。
言語の置換えはエネルギーを要する。
忍耐も必要である。
英語力・日本語力が相当要求される。
演習・発表が中心になる。
テキストは授業中に指示」いやはや噺家が入門志望者に向かつて話しているみたいだ。
私などは恐れをなして受講前に落伍しそう(もちろん、人気があるのでふるいをかける意味があるのだろう)。
もっとも、確かに、学生レベルの日本語力(英語力ではない)では商品となる翻訳がつくれないのも事実。
大学冬の時代。
特色づくりに翻訳講座が使われているのかもしれないが、学生諸君、無用な期待はせずに基礎の基礎を学ぶつもりで楽しんでみてはどうだろうか。
[楽しき哉、日曜翻訳家]「夢はいつもかえって行った昼下がりの林道を…ー」tmやhtら四季派の詩人たちが集った信濃追分の街道はずれに、その碑はある。
shの翻訳家として知られるn氏は、この都びた村に滞在して訳稿を練った。
n氏は戦前の人だが、専業翻訳家ではない。
O電鉄部、H製作所、T省電気試験所などに勤務する傍ら、余暇を使って大好きなkの小説を翻訳した。
碑は彼の功績をたたえた有志によって建立されたもの。
立身出世型のサラリーマンではなかったが、世俗の地位なぞ定年になってしまえば全く意味を持たない。
満ち足りた人生をマイペースで歩んだであろうn氏の徴笑みが見えてきそうな碑だ。
また、組織人としての階梯を着実に上ってn理事まで務めたytにはmoの実証的研究書があり、そのoも小説の傍ら軍人として軍医総監にまで達している(むしろ、軍務の傍ら小説を書いたというべきか)。
ふたつの面を持つ人生は倍生きたに等しい。
近頃では、サラリーマンが週末に舞台に立ったり、コンサートを聞いたりして観客を魅了することもあるようだ。
日曜画家として一流の作品を残す人もいる。
元・M商事取締役でシャーロキアンとしての著書も多いkm氏は「サラリーマンでも(年間)五00時間使えば、そのテーマの専門家になれる」と語っている。
できないことではなさそうだ。
仕事を持ちながら日曜翻訳家として訳書数冊という人生もまた楽しからずや、である。
[訳すプロセス人さまざま]どういう手順で翻訳作業を進めるか。
これは、作家によって手順が違うように、翻訳家も人それぞれだ。
・ざっと訳してから、なめるように文を整えていく人・口述筆記したものに筆を入れ、それからはじめて詳細に原文と突き合わせて点検していく人・調べ物に熱中して、なかなか訳さない人……とまあ、気質の問題が大いに絡んでいる。
アメリカものを得意とする中堅翻訳家Hさんの未完成原稿を覗いたことがある。
ワープロ打ちの原稿だが、時々英語が混じる。
にらんでいるうちに、その意がわかった。
どうやら、まだ辞書を引いていないために不明な単語のようである。
また、時として文末に幾通りかの訳文が併記される。
例えば、「・・・・・・したところだ」「・・・してしまっていた」「・・・していたのだ」といった具合。
これは、解釈の分かれるところで再考の余地あり、という印と見た。
なかなかシステマティックな手法である。
そこで、Hさんに、その心を尋ねてみた。
「いや、昔は暇だから頭から丁寧にやったんですよ。
でも、この頃は金にならない仕事ばかり多くて、数をこなさないことには食っていけない。
このやり方で訳すとけっこう生産性が上がるんですね。
まあ、生活の知恵です」なるほど、いかにもプロの言葉である。
[プロは間違えないか]もちろん、プロも大いに間違える。
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